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ドラマ『大岡越前』なぜTBSからNHKに 大岡裁きは脚色なのか

高橋克典さんが大岡越前の3代目となりました。「大岡越前」(おおおかえちぜん)は、江戸時代の名奉行として知られる大岡忠相(おおおかただすけ)を主人公にした時代劇ドラマです。この記事はドラマ「大岡越前」の魅力と大岡裁きについて検証します。

ドラマ『大岡越前』の魅力とは?

日本の時代劇を語る上で外せない作品の一つが、1970年からTBSで放送されたドラマ『大岡越前』です。この作品は全15シリーズ、約30年にわたり放送され、名裁きで知られる大岡忠相(演:加藤剛)の公正で人情味あふれる姿が多くの視聴者の心をつかみました。

ドラマ『大岡越前』の魅力は以下の点にあります。

1. 正義と人情の融合

主人公・大岡忠相は、ただ法を執行するだけではなく、事件の背景にある人々の苦悩や感情に寄り添いながら問題を解決する姿が描かれています。庶民の目線に立った名裁きは、現代にも通じる普遍的な正義を感じさせます。

2. 個性的なキャラクターたち

大岡忠相を支える同心や町人たちのキャラクターも作品の魅力です。特に主演の加藤剛さんの威厳ある演技や、榊原伊織(竹脇無我さん)や村上源次郎(大坂志郎さん)などの名脇役たちが物語に厚みを加えています。

3. 江戸の暮らしを再現

ドラマは単なる法廷劇にとどまらず、江戸時代の町や庶民の生活風景をリアルに描写しています。江戸の文化や風俗がドラマの舞台を豊かに彩り、視聴者を魅了しました。

『大岡越前』がTBSからNHKへ移行した理由

『大岡越前』はTBSで放送された後、2013年にNHKでリメイクされ、新しいキャストと演出で再び視聴者の前に登場しました。この放送局移行にはいくつかの理由が考えられます。

1. 制作体制の変化

TBS版は長期間続いたため、キャストや制作スタッフの高齢化が進み、制作を継続することが難しくなったのと、時代劇は視聴率が低下傾向で民放では厳しい状況でした。一方で、NHKは「大河ドラマ」や「木曜時代劇」など、質の高い時代劇制作の実績を持ち、新たな体制でのリブートに適していました。

TBS版を製作していたプロダクションは版権を保有していたのでNHKに移行するのは問題ありませんでした。

2. 新しい視聴者層へのアプローチ

NHK版では主演に東山紀之さんを起用し、より現代的で親しみやすい大岡忠相像を描きました。映像技術の進化を取り入れるなど、若年層を含む新たな視聴者層を意識したリメイクが試みられました。

3. 時代劇文化の継承

時代劇は徐々に視聴者離れが進んでいましたが、名作『大岡越前』の復活は、時代劇文化を次世代に伝える重要な役割を果たしました。NHKへの移行はその一環だったと考えられます。

なぜ後世に大岡裁きが脚色されたのか

大岡忠相の「大岡裁き」は、彼の実際の業績を基にしたエピソードもあれば、後世の作家や講談師による脚色や創作も数多くあります。その理由を以下にまとめます。

1. 庶民に共感を呼ぶ物語を作るため

江戸時代、裁判や行政は庶民にとって身近なものではなく、武士や役人の世界の話でした。しかし、大岡忠相の裁きは庶民の生活や争いに目を向け、公平に解決する姿勢が人々に共感を呼びました。
作家たちは、この「庶民の味方」としてのイメージを強調するため、実際のエピソードを分かりやすく、時にはドラマチックに脚色しました。例えば「三方一両損」など、登場人物が教訓を得る形で物語が収束するフィクションが生まれました。

2. 娯楽性を高めるため

江戸時代後期から明治時代にかけて、読本や講談といった大衆向けの娯楽作品が人気を博しました。これらの中で、大岡忠相の名裁きは物語の題材として最適でした。

娯楽作品の需要: 多くの人が手軽に楽しめる内容にするため、実際の厳しい法律論ではなく、親しみやすい物語性が加えられました。

特徴的な裁き: 分かりやすく、奇抜なアイデアや人情味が盛り込まれた裁きが描かれた。

3. 教訓や道徳の啓発

大岡裁きは、単なる面白い話としてだけでなく、教訓や道徳を伝える物語としても使われました。

人情の尊重: 金銭や地位にとらわれない、公平で慈悲深い裁きは、道徳的なメッセージを伝える上で効果的でした。

善悪の区別: 大岡忠相は悪人を懲らしめ、善人を救う正義の象徴として描かれました。

4. 実際の記録が少ないため

大岡忠相の実際の裁判記録はあまり多く残されていません。当時の裁判は公的記録として詳細が保存されることが少なく、また、忠相が関与した具体的な裁判は数が限られていました。
このため、作家たちは忠相の名声を基に創作や脚色を行い、彼の人物像を豊かにするために物語を作り出しました。

実在の大岡越前は

実在の大岡忠相(大岡越前)は、江戸時代中期に幕府の重要な役職を歴任し、多くの業績を残しました。主な活動と功績は以下の通りです。

  1. 町奉行としての活躍
    • 享保2年(1717年)から約20年間、江戸町奉行を務めました。
    • 江戸の市政、司法、治安維持に尽力しました。
  2. 寺社奉行としての貢献
    • 町奉行退任後、75歳で没するまでの約16年間、寺社奉行の重職に就きました。
  3. 享保の改革への貢献
    • 8代将軍・徳川吉宗が進めた享保の改革を町奉行として支えました。
  4. 評定所一座としての役割
    • 関東地方御用掛、奏者番などを務め、幕府の重要な政策決定に関与しました。
  5. 大名への昇進
    • 寛延元年(1748年)、三河国西大平(現岡崎市)1万石を領し、大名に昇進しました。
    • これは江戸時代を通じて、町奉行から大名になった唯一の例です。
  6. 山田奉行としての経験
    • 正徳2年(1712年)から享保元年(1716年)まで、第18代山田奉行を務めました。

実在の大岡忠相は、公正な裁きで知られる名奉行・政治家として人々から尊敬されましたが、『大岡越前』に描かれるような劇的な裁判エピソードの多くは後世の創作であり、実際の忠相とはほとんど関係がないとされています。

ちなみに、大岡越前の越前は官名の越前守からで、大岡家の藩主はほとんどが越前守だったので、大岡越前と呼ばれた人は何名もいる。

おわりに

ドラマ『大岡越前』は、実在の名奉行を題材に、正義と人情を融合させた物語で多くの人々に愛されてきました。TBS版からNHK版への移行や、大岡裁きの脚色などを通じて、作品は時代を超えて進化し続けています。

名裁きの裏には、視聴者や読者が求める共感、教訓、そして娯楽が凝縮されています。あなたにとっての『大岡越前』とはどんな存在ですか?新旧の作品を見比べて、その魅力を改めて感じてみてはいかがでしょうか。

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